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【後編】賢明な選択(Choosing Wisely)とは?看護師が語るALSや褥瘡ケアでの意思決定支援   No29

< 前編の概略:人生の土台を守る「賢明な選択」>

前編では、Choosing Wiselyが医療の過剰な無駄を排除し、国民皆保険制度を守るための連帯の意思であることをお話ししました。そして、私の看護理念である「賢明な選択」とは、一見無駄な経験を否定することではなく、「将来の自己決定権や健康という土台を破壊する行為を避ける知恵」であるとお話しました。

本編では、この考えを、私が長年直面してきた医療現場の葛藤と個人の人生にどう応用できるのか、具体的な事例を通じて考えてみたいと思います。


<【現場の葛藤】「人に優しく、情報に厳しく」の実践>

この「賢明な選択」は、医療現場の日常的な葛藤の中でこそ、その真価が問われます。

※プライバシー保護のため、一部内容を構成し直しています


事例1)複数の医師の指示と褥瘡ケア

以前、ある訪問看護ステーションで勤務し始めた頃、一人の患者さんの褥瘡ケアを担当しました。これが私の経験した、意思決定支援の原点の一つでもあります。

医師2名からの指示があり、一人は皮膚科の先生、もう一人は大学病院の形成外科の先生でした。ご家族のご希望で、それぞれの受診日に合わせ、指示された異なる軟膏で処置をするという非合理的な方法が取られていました。

事業所からは「関係性ができていない中で、不要なことは言わないように」と指示されていましたが、私は患者さんにとっての最善を考え、3回目の訪問の際、褥瘡の状況に対して軟膏の使い方が違うことをご家族に説明し、受診先の医師に相談していただくよう、ご家族へ提案しました。。

「賢明な選択」とは、「その場の人間関係の調和」よりも、「情報(薬剤の適応)に厳しく」「患者の生命と最善の利益」という「人への優しさ」を優先する勇気だと考えます。


事例2:ALS患者と「生きる希望」の情報提供

もう一つ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された女性の患者さんのケースです。

徐々に体が動かなくなり、ご自身から社会との関係を断絶され、面会も拒否されていました。私は彼女の心を動かす手立てを持っていませんでしたが、たまたま、その方と同じ職種の方がALSになり、SNSで社会に発信されていることを知っていました。

私は、その方の情報をプリントにしてお渡ししました。それがきっかけとなり、患者さんはご自身の活動が活発になり、自室を喫茶にしてスタッフを招いたり、市内のお祭りに参加されたりするまでになりました。

ここで提供したのは、治療情報ではなく、「生きる選択肢」を広げる「希望という情報」です。「賢明な選択」とは、不必要な情報を避ける厳しさだけでなく、「生きる希望となる、本当に必要な情報」を「人への優しさ」をもって届ける前向きな行動もあると考えます。これこそが、患者さんの生きる希望を引き出す意思決定支援の形だと考えます

水彩画風の優しいイラスト。日本の夏祭りの提灯や屋台が並ぶ賑やかなアーケードの中を、車椅子に乗った若い女性(ALSの疾患を持った)と、その車椅子を押す看護師が笑顔で進んでいる。女性は楽しそうに屋台を指差し、二人はお祭りの活気あふれる雰囲気を心から楽しんでいる。
「『もう一度、外の世界へ。』 届けたのは治療の知識ではなく、心動かす一筋の希望でした。お祭りの賑わいの中で見せてくださった最高の笑顔は、私たちにとっても生涯の宝物です。」

<おわりに:理念が導く健全な社会と人生>

私の看護理念の核にある「賢明な選択」(Choosing Wisely)は、私たち自身の「弱い部分」(惰性や不完全さ)を認めつつ、自分自身の人生の土台を守るための知恵だと思っています。

日頃からこの「賢明な選択」の看護理念を積み重ねることは、人生の最終局面において「後悔の念」を最小限に抑え、後悔のない人生を歩むための土台となります。それは同時に、大切な人を亡くした際の心の反応(悲嘆)を和らげる、最も現実的なグリーフケア(悲嘆の予防策)にもつながるのです。

この一連のプロセスこそが、私が事業の理念とする「人に優しく、情報に厳しく」の本質であり、患者さん一人ひとりの想いに寄り添う意思決定支援そのものであると考えています。


①人に優しく:信念を大切にし、連帯する選択

人間の弱さから生じる「惰性」を認めつつ、自分や大切な人の「自己決定権と健康」という基本を大切にすることは、まず自分自身への優しさです。そして、国民皆保険制度という困っている人を助けるためのシステムから「形骸化した無駄」を排除することは、将来の国民への優しさであり、連帯の意思です。

上段:暗い室内で、山積みの資料の中から一筋の光が当たる重要な書類を慎重に手に取る両手のアップ。下段:窓の外に広がる夕暮れ時の夏祭りの風景と、机の上で微笑む人々の画像が映るタブレットを見つめる、穏やかな表情の女性看護師の横顔。傍らには空の車椅子が置かれている。温かみのあるイラスト風の描写。
「情報に厳しく、人に優しく。 膨大な選択肢の中から、その方の人生を照らす一筋の『希望という情報』を選び取る勇気が、新しい生き方への扉を開きます。」

②情報に厳しく:健全性を育む選択

「情報に厳しく」であることは、科学的根拠のない医療行為や、不必要な薬・検査を排除する厳しさを持つことです。この厳しさは、事業においても、非効率な業務や目的のない時間の浪費を排除し、組織の資源を真に価値を生む活動に集中させることで、健全性を育みます。

「何をしないか」を賢明に選ぶことは、「どう生きるか」を豊かにし、個人の心身の健康、後悔のない人生、そして優しさと厳しさが循環する健全な社会という目標を実現する、最も大切な知恵なのです。

私たちは、人生の最終章で後悔しないために、この「賢明な選択」を具体的な対話に変えていく必要があります。

➡️ 次のブログでは、「人生の最終章における最も賢明な選択」を可能にする、具体的な対話の方法【ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、別名人生会議】についてお話しします。

 
 
 

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