70歳を前に高齢者として選んだ、保護犬の老犬を引き取る責任-殿ちゃんの看取り 後編 No33
- harmonia77
- 1月16日
- 読了時間: 5分
<はじめに>
2020年、浜松への転居を機に、私は「最後になるであろうペット」を飼う決断をしました。自分が既に70歳を目前にした高齢者であったため、子犬を育てる責任の重さを考え、あえて保護施設から保護犬の老犬を引き取り、最後まで育てるという責任を選んだのです。これは、トイプードルの「殿(との)」と出会い、最期の看取りまでを共にした記録です。
<70歳を前に、高齢者が保護犬の老犬を選ぶということ>
私は、湖西市のボランティア団体「アニマルフォレスターペアレンツ」という施設から、保護犬を引き取ることを決めました。
施設には多くの犬や猫が保護されていましたが、その中で、ケージに入れられた老犬のトイプードルが6匹ほど目に留まりました。他の子たちは私が近寄ると、飛び跳ねて全身で喜びを表現してくれました。けれど、その中の一匹、黒いトイプードルの男の子だけは奥の隅の方で、小さくちぢこまったまま動かずにいたのです。
「人慣れしていないこの子を(家族に迎えたい)」
寂しそうに丸まっているその姿を見て、私はそう決意しました。 当初の彼は、尻尾を振ることもなく、尾が約90度の角度で固まって持ち上がらない「拘縮(こうしゅく)」の状態でした。おもちゃでの遊び方も知らず、誕生日も分かりません。我が家に来た時点で既に10歳以上の老犬であるとの獣医さんのお話でした。歯は一本もなく、食も細く、体重はわずか2.3kg。私は「臆病な性格から、元気でやんちゃな子になってほしい」との願いを込め、彼を『殿(との)』と名付けました。
また、一人では寂しいだろうと考え、数日後にはもう一匹、茶色のトイプードルのトライアルも始めました。その子は人懐っこい子でしたが、2日間一緒に生活をしてみると、どうしても殿ちゃんを追いやってしまう場面が見られました。殿ちゃんが穏やかに過ごすことを最優先に考え、苦渋の決断でしたが、茶色の子は施設へ戻し、殿ちゃん一筋で向き合うことに決めたのです。

<体重3kgを目指して。老犬のための食事と介護の工夫>
少しでも体力をつけてほしくて「体重3kg」を目標に掲げましたが、食の細い殿くんはなか
なか食べてくれません。歯がないことに合わせ、当初は高齢犬用のソフトドライフードをペースト状にするなど工夫を重ねました。
やがてチーズやチキンが好きだと分かり、2年ほど前からは、朝晩、生肉やサツマイモ、茹でた野菜(ニンジン、ブロッコリー、キャベツなど)を混ぜた手作り食に切り替えました。お腹を壊しやすい殿ちゃんのために、ビフィズス菌やオリゴ糖のサプリメントを混ぜ、裏庭では彼の大好物のサツマイモも育て始めました。
白内障で目が見えなくなり、脳腫瘍の疑いから歩行が困難になってからは、朝夕の散歩を庭での日光浴に切り替えました。こうしたケアが実を結んだのか、一時期体重が2.7kgまで増えた時は、嬉しさで思わず笑みがこぼれました。
<命のしまい方。自宅での看取りに向けた準備と覚悟>
最期の1年は常に頭が下がった状態で、壁にぶつかって転ぶことも増えたため、ケージの中で過ごす時間が長くなりました。それでも日中30分は庭の芝生の上で日光浴をさせることを心がけました。
亡くなる2週間前からは硬直性の痙攣が始まり、体重は2.02kgまで減少。少しでも栄養を摂らせようと、ペースト状の食事に高齢犬用のミルクパウダーを混ぜて与えました。そのため、顔まわりや耳が汚れやすくなり、頻繁に体を拭いてあげる日々が続きました。最期の1ヶ月はシャワーが負担になるため清拭のみでしたが、綺麗にしてあげきれない心苦しさもありました。
亡くなる10日前、薬を飲めなくなった殿ちゃんのために、獣医師の指導のもと、私は朝晩、痙攣抑制のための皮下注射(セルシンやフェノバール)を自ら行いました。亡くなる前日の夜中、激しい徘徊を続ける殿くんを見かねて「追加の注射を打とう」と階下へ薬を取りに行きましたが、戻ってみると彼は静かに寝息を立てていました。まるで私の覚悟を試したかのような彼の様子に、一安心すると共に「一本取られたな」と少しおかしくもなりました。😏。


<大晦日の朝、穏やかな光の中での看取り>
そして翌2025年12月31日、大晦日の朝。 少しだけ朝食を口にした後、午前8時45分。私の膝の中で、殿ちゃんの呼吸が静かに浅くなり、そのまま息を引き取りました。かつて愛犬ミーちゃん(シーズー犬の未来)を見送った時の教訓を胸に、今回は取り乱すことなく、殿ちゃんをしっかりと抱きかかえて最期を看取ることができました。
これまでのペットたちの中で、初めて一人の飼い主としての責任を持ち、最後の一秒まで寄り添えた実感がありました。悲しみはもちろんありましたが、心はどこか穏やかな大晦日でした。
<終わりに>
ペットも大切な家族です。愛情を傾ければ傾けるほど、穏やかで温かな関係性を築くことができます。動物との触れ合いは、幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」を分泌させ、私たちに幸福感や安心感をもたらしてくれます。セラピードッグやセラピーキャットが、高齢者施設や学校、そして職場で活躍しているのも、その癒やしの力を多くの人が必要としているからでしょう。
2004年、まだ若かった私がふと書き留めた言葉があります。今回、殿ちゃんを看取り、歴代の家族たちを思い返したとき、その言葉が今の心に一番しっくりと馴染みました。
「命を預かり、共に生きる。それは一方的なお世話ではなく、互いに魂を癒やし合う時間だったのだ」
殿ちゃん、たくさんの愛をありがとう。






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