top of page
検索

認知症の家族の通所拒否や「困った行動」で悩む方へ——実際に効いた「小さな工夫」を3つ紹介     ―No15―

更新日:2025年9月26日

<はじめに>

少子高齢社会が進む中、企業にとって「介護離職」や「家族の介護負担」は、もはや遠いテーマではなく、現役世代の安定的な働き方を支える重要な課題になっています。

そのような中で私は、かつて母の介護を通じて、「高齢者の尊厳を保ちながら、その人らしく過ごせる場づくり」の大切さを実感しました。

認知症の母親がディサービスで配膳の手伝いをしている

 

<アルツハイマーの母に効いた「仕事としての通所」の発想>

私の母はアルツハイマー型認知症でした。困りごとは、受診やデイサービス通所を強く拒否していたことです。手立てとして、デイサービスを「仕事の場」として位置づけることで、母は拒否なく「出勤」することができました。

母は長年、給食センターで経理の仕事をしながら配膳の手伝いもしていました。そこで、デイサービスでは配膳の手伝いをお願いし、周囲も「手伝ってくれてありがとう」と感謝の言葉をかけてもらいました。母の表情は変化し、満足げに笑い、自尊心を保ちながら通所できたようでした。

自宅生活では、娘である私の家に泊まりに来たときのことです。母の寝室にしていたのは、トイレのすぐそばの部屋でしたが、認知症が進んだとき、トイレに行くために部屋を出ようとしてドアを見つけられず、大声を出したことがありました。

それ以降、我が家に泊まるときは、母の自宅の部屋と同じ扉の位置に合わせてベッドを設置しました。そうすることで夜間のトイレ移動も問題なくできるようになりました。

母はドライブや出かけることが好きでした。そこで、私はほぼ毎週末に、片道3時間近くかけ、神奈川県伊勢原市から静岡県磐田市の実家まで行き、母を連れ出し、我が家で一泊しました。時には日帰りで、母を天竜川の上流や浜名湖一周などへドライブに連れ出していました。車中では、決まって「しりとり」でした。運転しながらでもできることと、言葉の遊びで、「へっぷり(おならの方言)」や「リヤカー」など、ちょっとおどけた言葉や懐かしい言葉を私は好んで出すと、母は大笑いしてくれました。そのため、2時間くらいは「しりとり」をしていても時間は十分でした。

 

<収集癖が落ち着いた「先生」の役割づくり>

デイサービスを利用する女性利用者さんの困りごとは、ティッシュの収集癖でした。その方がトイレを使用した後にはトイレットペーパーは芯だけが残り、座っていた席のティッシュペーパーもすぐに空箱になりました。自宅の押し入れにはそのペーパーが山になっていると、家族からも困っているとの相談がありました。

その女性は過去に華道の先生をされていたと伺い、手立てとして、毎回デイサービスに来られると庭から花を摘み、花鋏と花瓶をテーブルに準備し、「お花を飾りたいので、先生、お花を活けていただけますか?」と伝え、活けてもらいました。スタッフにも「先生」と呼ぶようにしました。ご家族にも認知症の行動について冊子をお渡しし、説明をしました。しばらくすると異行動はなくなり、驚くほど穏やかな表情に変わりました。

 

<朝いちの一声で不安をほどく「母語・思い出」に届く関わり>

体格の大きな男性利用者で、困りごとは、デイサービスに来られると大声を出し、椅子に座ろうとせず、ずっと立ちっぱなしで、スタッフもどのように対応してよいかわからず、体格からして対応が大変な方でした。

その方の情報では、船で外国航路を回り、ポルトガル語を話せると聞き、手立てとして、朝の挨拶をポルトガル語で交わす対応をしました。そうしたら、とても和やかに挨拶を返してくれて、「どうしてポルトガル語が話せるのか」などと笑顔で聞いてくれるようになりました。こちらは、ポルトガル語は挨拶しかできないのですが、朝いちの対応が功を奏したのか、その後の一日は比較的穏やかに過ごせました。デイサービスを利用されるときは、同じ対応で反応も同じでしたが、短期記憶に障害があるため大きな問題もなく過ごせるようになりました。

 

<パーソンセンタードなケア>

これらの3事例は、その人の背景を理解し、その人を中心に見立て、その人に寄り添い、役割・環境の調整をし、肯定的なフィードバックをすることです。すべてが私の接遇の基本の考え方でもあります。こうした「個人の尊厳を大切にする接し方・環境づくり」の視点が必要だと感じます。

 

私の認知症の学びの始まりは大学での認知行動療法です。認知行動療法は、認知症というよりも問題行動への対処方法ですから、認知症とはあまり直接的なケアではありませんが、通じるものはあります。

その次に、パーソンセンタード・ケアを学びました。パーソンセンタード・ケアは心理学を背景に「その人を中心に据える」考え方です。ただ、当時の私はケア=直接のケアというイメージが強く、関わり方や関係づくりを重視するこのアプローチは実感しにくいままでした。いまは「技法」だけでなく「関係」こそがケアの土台だと腑に落ちています。


 
 
 

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page