災害支援ナースが考える防災訓練と同行避難-形骸化を越えて命を守る訓練へ― No75
皆さんの地域では、防災訓練はどのように実施されているでしょうか。
「災害はいつ起こるかわからない」からこそ、季節や時間帯を変えて実践的な訓練を行い、住民の多くが主体的に参加している地域がある一方で、どこか「形骸化」してしまっている現場も少なくないのではないでしょうか。
役員や関係者が義務感で集まり、実際の避難所までの移動訓練はなく、炊き出しのご飯を配り、防災課の講話を聴いて解散――。かつて私が暮らしていた地域でも、似たような光景が見られました。
ペット同行避難と防災訓練の現実
現在暮らしている地域では、主に2種類の訓練が行われています。 一つは、津波避難を想定し、提携している5階建て以上の建物の屋上へ非常階段を使って駆け上がる訓練です。
引っ越してきたばかりの頃、私も参加しました。非常持ち出し袋を背負い、防災頭巾をかぶり、そして我が家の大切な家族である愛犬(高齢のトイプードル)をペットスリング(抱っこ紐)に入れて階段を上りました。 しかし、翌年の案内用紙には「ペットは連れてこないように」との一文が。アレルギーや衛生面への配慮から出た言葉かもしれませんが、「現実に災害が起きたとき、家族である命を置いて逃げることなどできるだろうか」と、同行避難の難しさと現実のギャップを深く考えさせられた出来事でした。
現在は環境省も同行避難を推進していますが、避難所内で同伴できるかどうかは地域によって対応が異なるようです。

もう一つは、避難所に集合してマンホールトイレや地震体験車などを体験する訓練です。 一昨年参加した際、私はすでに「災害支援ナース」として登録を済ませていたため、避難所運営の中で何か職能を活かした役割や連携の場がないかお尋ねしました。
しかし、当時私がお尋ねした範囲では、そのような仕組みはまだ十分には共有されていないようでした。地域での登録数もまだ少なく、行政側でも周知や連携の仕組みが追いついていなかったようです。
そこで今年度、市の防災担当者による講話が行われた際、プログラムの最後に時間をいただき、住民の皆さんに向けて「災害支援ナース」という存在とその役割について簡単にご紹介させていただきました。平時から「地域にどんな専門職がいるか」を知っておくことこそが、共助の第一歩だと感じたからです。
医療救護訓練と災害支援ナースが見た課題
そして先日、昨年に引き続いて地域の「医療救護訓練」に参加してまいりました。
この訓練は、災害時に病院が機能不全に陥るのを防ぐため、院外の医療従事者(医師・歯科医師・看護師・薬剤師)が応援に入り、救護体制をサポートする仕組みです。 一般的に知られるトリアージの4区分――
赤(重症:最優先治療群)
黄(中等症:待機的治療群)
緑(軽症:軽処置・帰宅可能群)
黒(死亡または救命困難群)
この訓練では、「赤」と「黄」は病院内スペースでの病院のスタッフが担当し、
私たち外部からの応援医療職は「緑」の対応やトリアージの補佐を担います。
今年は昨年に比べて参加者が倍近くに増えており、関心の高まりを感じました。
しかし、参加者が多い分、前半・後半に分かれての体験となり、実際に動けた時間は30分足らず。
大災害の現場では、必ず想定外の混乱が起きます。だからこそ、非常時において何より重要なのは「明確な指揮命令系統」であり、「応援部隊の一人ひとりが、自分の果たすべき役割を迷いなく把握できていること」です。
また、日本の多くの行事で見られる光景ですが、
訓練の前後には挨拶や情報共有の時間も設けられていましたが、限られた訓練時間を考えると、現場で実際に動きながら体験する時間をより多く確保できれば、さらに有意義になるのではないかと感じました。
限られた貴重な訓練時間だからこそ、セレモニーではなく「目の前の実践」と「現場で動く人の顔」に焦点を当ててほしい――そう強く願わずにはいられませんでした。
地域防災に必要な「人に優しく、情報に厳しく」の視点
訓練のための訓練、サインのための書類、形だけのセレモニー。 どれほど立派なマニュアルがあっても、いざという混乱の中で動かなければ、命を守ることはできません。
客観的に混乱を予測し、指揮系統や連携の仕組みを冷徹に見直す「情報に厳しく(システム)」の視点。 そして、ペットを抱えて逃げる住民の不安や、避難所で途方に暮れる人々の心、現場で動くスタッフの尊厳に寄り添う「人に優しく(対話・共助)」の視点。
現場の医療者として、そして一人の地域住民として、形骸化の壁を少しずつ崩しながら、本当に生きた「命の連携」を地域の中に紡いでいきたいと感じた一日でした。





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