top of page
検索

NO10)「医師の専門性は制度に削られていく ― Choosing Wisely 第2弾」

更新日:9月1日

【はじめに:保険制度により医師の働き方が変化?】

前回のchoosing wisely第一弾では反響が大きくあり「本当に必要な医療、患者側の責任も然り、医療を提供する側の想像力が無く、治療が大前提の日本の医療がいかにQOLがお粗末か」「その頃(看護師なり立て)には気付かなかった日本の医療文化に対して、疑問に思うところが多々出てきました。これからの医療のあり方を社会全体で、もっと考えていかなければなぁと感じました。」(中略あり本文参照)などのコメントを頂きました。

さて、医療現場で日常的に行われている“短時間診療”や“ルーチン検査”。それは本当に、患者のための最適な医療なのでしょうか?それとも、医師自身が本来の役割や専門性を後退させ、医療の価値を自ら矮小化させてしまっている側面があるのではないでしょうか。この背景には、医師の問題よりも、医療保険制度自体が起こした結果でもあると考えることも出来ます。

例えばアメリカでは、医師の平均年収が約3,000万円、日本の2.5倍以上とされています。また、外来1回あたりの診療単価も4倍近くに上ります。

この記事では、私自身の経験や視点を交えながら、「医療の効率化」と「専門性の形骸化」について考えてみたいと思います。


【3分診療の時代と、医師から離れていった診療行為】

かつて日本では、「3分診療」という言葉がよく聞かれました。患者の数が圧倒的に多く、限られた診療時間の中で“こなすこと”が優先されていた時代です。

その中で、医師の役割は「診断と治療」から次第に「判断と処方」に移り、問診・視診・触診・聴診・打診といった基本的な診療行為が、徐々に他職種に委ねられていきました。

  • 検査は検査技師

  • レントゲン撮影は放射線技師

  • 薬剤の説明は薬剤師

  • 最近では、問診さえも看護師が行うことが増えています

確かにチーム医療の観点からは、分業は合理的です。しかし、こうした「医師以外への依存」が進む中で、患者と医師との直接的な関わりの時間が減り、“診る医師”の存在感が薄れてきているように感じています。


【検査依存と医師単価の低下:効率化の代償】

この分業体制が進んだ結果として、医療補助者への人件費は増え、対照的に「医師の単価」が相対的に下がってきているように感じます。

短時間で多くの患者を診る「効率性」が求められるあまり、本来医師が担うべき「個別性への対応」「納得感のある説明」などが後回しになってしまっているではないでしょうか。

こうした状況の中で注目されているのが、「Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー)」という考え方です。これは、「本当に必要な検査・治療を選択し、無駄を減らそう」という世界的な医療の潮流ですが、日本ではまだ十分に浸透していない印象があります。


【私自身の実体験:ルーチン検査への違和感】

米国に滞在していた際、スキーで転倒し受診したときのことです。そのときの医師は、丁寧な問診と診察でじっくり時間をかけ、最終的にレントゲン撮影を行わずに診断を下しました。日本人である私は、レントゲンを撮らないことへの違和感は実際にはありましたが、診療台に座らせた私の足をしっかり、視診・触診・打診をし、英語もまだ不十分な私から状況確認もしてくれ、私は、医師の診たてに信頼感を持ち、納得して帰宅しました。

現在、私は慢性疾患(甲状腺機能低下症・原発性アルドステロン症)のフォローアップを定期的に受けています。定期的な採血、レントゲン、心電図がセットで実施されます。症状に変化がなくても、ルーチン検査として実施されます。かつて私も、転居後に新しいクリニックで半年以上検査がされないことに不安を覚え、別のクリニックに変えた経験があり、患者としての不安や葛藤も理解しているつもりです。でも、だからこそ「何のためにこの検査をするのか?」という問いかけを、私たち一人ひとりが持つことが大切だと思います。


【おわりに:医師も、患者も、原点を見つめ直すとき】

医療保険制度は、高齢化や高額薬剤の利用増による財政悪化を受け、昨年12月に高額医療費制度の負担上限額を段階的に引き上げる方針を決定しましたが、実施は延期されています。しかし、医療保険制度の見直し議論は今後も続くでしょう。その中で、限られた資源をどう活用するか?「Choosing Wisely」の理念は、制度改革の時代にこそ重要性を増しています。

医療の効率化が進む中で、医師自身が「専門職としての自らの価値」を見失っていっていないでしょうか。また、患者もまた、「過剰なサービス」に慣れてしまい、「本当に必要な医療とは何か」という視点を持ちにくくなっていないでしょうか。

本当に大切なのは、“医療の原点”に立ち返ることではないかと考えます、

  • 医師は「診る力」と「判断する力」を再認識し、

  • 患者は「納得と信頼」に基づく医療を選ぶ力を持つ

そんな医療のあり方こそが、これからの時代に求められているのだと思います。そして、これは私自身の願いでもあります。私は一人の看護職として、患者さんが受診のたびに納得し、安心できるようなサポートを通じて、この問いに共に向き合っていきたいと願っています。

※グラフ出典:医師の年収データ — OECD Health Statistics 2023、American Medical Association(AMA)外来1回あたりの診療単価 — WHO、OECD、IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)国際比較データ参照URL:https://www.healthsystemtracker.org/chart-collection/health-spending-u-s-compare-countries/

ree

 
 
 

3件のコメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
匿名
8月20日

ブログ読みました。その通りだと思います。皆保険制度の弊害という側面もあると思います。また、CTやMRIの保有台数が段違いに多いのも検査を多くする要因でしょう。(知人の医師よりコメントをいただきました)

いいね!

匿名
8月10日

考えさせられました。国民皆保険は、昔、医者にみてもらえない人がいた状況をなくす点では、力を発揮したと思います。

しかし、ここで指摘されているような、悪い方向への変化も生むことになってしまった。

皆保険の精神を生かしながら、多様な診療にも育ってもらうとなると、はてさてどんな道が考えられるのか。

今の私には、難しすぎます。

ただ、患者として、納得のいく薬の出し方と、治療の仕方に納得できる説明をお願いすることは心がけています。

普段、意識していない問題に目を向けさせてくれて、ありがとうございました。🙇(LINEでいただいたコメントを了解していただき載せています)

いいね!

匿名
8月09日

ブログ、拝読させて頂きました。

日本の医療がいかに問題があるか、素人の私でも分かりました。(ご本人に了承いただきLINEでのコメントを載せています)

いいね!
bottom of page