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制度改定と医療DXの本質──医療安全と看護師の経験から見える「悲劇を繰り返さない仕組み」 No49

― 4月からの制度改定と、ある看護師の退職が私に遺したもの ―

2026年4月、私たちの暮らしを取り巻く多くの制度が大きな節目を迎えました。道路交通法の改正に加え、医療・福祉の現場でも「医療DX」の義務化が本格始動しています。

私自身、最近受診した内科で「当院では特定健診の結果などを情報共有しています」という掲示を目にしました。以前なら複数のクリニックを受診すると検査が重複することもありましたが、今はデジタル技術を活用して情報を共有し、医療の質向上と効率化を目指す「医療DX」が、私たちの身近な守り手となりつつあります。

 ※医療DXとはデジタル技術を活用して医療・保健・介護の情報を共有・活用し、

  医療の質向上と業務効率化を目指す


以下に主な制度改定をまとめます。

項目

内容

詳細




子育て・教育

こども家庭庁の新支援制度スタート

 

 

 

 

保育士配置基準の一部見直し

妊娠期から18歳までの一体支援

経済的支援の拡充

高校の新学習指導要領の完全実施

情報Ⅱ(プログラミング・AI)が必修化

探究学習の拡大

0〜2歳児の配置改善に向けた段階的施行




労働・働き方

労働条件明示の義務強化

中小企業の残業規制(罰則付き)完全適用

育児休業制度の拡充

副業・テレワークの条件明示が必須に

月45時間・年360時間の上限が厳格化

男性育休の取得促進措置が義務化

企業の公表義務が強化




年金・社会保障

年金の在職定時改定の拡大

国民年金の納付猶予制度の拡大

働きながら年金を受け取る人の仕組みが改善

対象年齢・所得基準が緩和




税制(2026年度税制改正)

住宅ローン控除の見直し

インボイス制度の経過措置終了

NISAの細則調整(恒久化後の運用改善)

省エネ住宅の優遇が拡大

小規模事業者も本格対応が必要に

非課税枠の使い方が柔軟に




デジタル・行政手続き

マイナンバーカードの新仕様開始

セキュリティ強化

健康保険証の完全廃止に向けた移行

行政手続きのオンライン化義務化

企業の申請・届出のデジタル化が加速




医療福祉関係

*先出除く

介護保険制度の見直し

 

訪問看護の報酬体系の一部変更

 

在宅医診療報酬の一部改定

要介護認定の審査基準の一部改定

自立支援・重度化防止の評価が強化

ICT活用に関する加算

多職種連携の評価が拡大

24時間往診体制や看取りの件数など在宅看取りを評価する体制




 これは単なる効率化ではなく、 過去の悲しい出来事を繰り返さないための“仕組みづくり”でもあります。


「システムの問題」として捉える医療安全の視点

今回の制度改定の背景には、保育事故や過労死、医療事故、マイナンバーの誤登録といった、多くの「痛み」があります。これらの背景には少子高齢化による人材不足や財源不足もありますが、共通しているのは「人的災害を最小限に抑え、働く環境を良くしよう」という方向性です。


医療界には、「医療は本質的にリスクを伴うものであり、個人の努力だけでなく、組織的な安全対策がなければ事故は防げない」(日本医師会)という考え方があります。誰かの過失を責めるのではなく、体制(システム)の不備と捉えて再発防止を図る。そのために、被害がなかった「インシデント(ヒヤリ・ハット)」の段階から報告を上げ、検討を重ねる文化があります。

しかし、こうした仕組みがある一方で、いざ事故が起きると「個人」を断罪する声が上がってしまうのが現実です。意図的なものは「犯罪」ですが、現場で起きる多くの事故は誰かの悪意ではなく、複雑な条件が重なった結果なのです。


医療現場の安全をテーマにした、青(左)と橙色(右)のコントラストが美しいデジタルイラスト。左側には、医療DXや制度改定を象徴する、冷徹で整然とした「デジタルの光のライン(防波堤)」が描かれている。右側には、温かい橙色の光の中、二人の人物が手と手を携え、寄り添いながら歩く姿が描かれ、事故後の職員サポート(セカンドビクティムへの支援)や誠実な「接遇」を象徴している。中央では、この冷たいデジタルの光と温かい人間の光が融合し、一つの大きな「盾(安全の象徴)」と、そこから広がる穏やかな地球(harmonia planet)を形成している。背景にはうっすらと4月の桜が舞い、新しい時代への希望と、変わらない人の温もりの調和を表現している。
システムの「防波堤(医療DX)」と、人間の「誠実な関わり(接遇・サポート)」が調和して生まれる、確かな安全と信頼。

【悔恨】 管理者として、彼女の孤独に伴走できなかったあの日

私は、管理者としてスタッフに十分な関わりができなかったことを、今でも悔やんでいることがあります。 かつてある病院に着任した際、その部署では前年度に異型輸血事故が起きており、当事者の一人の看護師が勤務していました。彼女は技術も確かな優秀な方でしたが、どこか深い孤独の中にいるような暗い印象でした。私は話を聴きたいと願いましたが、周囲から「上層部が関与しているので関わらない方がいい」と止められ、現場を優先してしまいました。

彼女は、私の着任後1か月後に去っていき、後に事故への彼女の関与はなかったことが判明しました。

医療事故では被害者の救済はもちろん、関わった医療従事者へのサポートも忘れてはいけません。自責の念から自死に至るケースさえあるからです。

1990年代の相次ぐ事故を経て安全対策は強化されましたが、スタッフへの精神的ケアが重視され始めたのは2010年頃からです。

なぜ、管理者として彼女の孤独に伴走できなかったのか。私自身の関わり不足を、今も痛感しています。

 

【告白】 私の失敗と、再発防止へのプロセス

私自身も40年以上のキャリアの中で、多くの失敗を経験してきました。

(※より深い悲嘆の葛藤については、過去のブログ「【命の現場 体験談】No25」をお読みください)

  • 深夜勤務での心電図見逃し: あの時代は、電波が十分届かないことで、接続不良が再三ありました。そんな時、異常波形を「電波不良」と見過ごしかけましたが、直感的に不安を覚え、即座に見回りに行きました。結果、意識のない患者様を発見し、即時の心肺蘇生と医師への連絡により、一命を取り留めることができました。

  • デイサービスでの転倒: 数年前のこと、訓練中にご利用者様が転倒される際、抱えようとして共に転倒しました。外傷はありませんでしたが、即座にインシデントレポートを記載。以降の対策として、体格の大きな方は男性職員が対応する体制へと変更しました。

  • 訪問看護での服薬ミス: 一昨年、薬カレンダーの見間違いで翌週分の薬を服薬介助してしまいました。即座に上司へ報告し、ご本人とご家族へ謝罪。連絡帳への記載と共に、数日間の厳重な観察を継続しました。

また、自信に満ちていた30代の頃、良かれと思っていた体位交換が頸椎損傷の患者さんには苦痛だったという経験もしました。自分の「正しい」が相手の「安楽」ではない。ケアの「個別性」の重みを、私は崩れ去る自信と共に学び直したのです。


失敗から学び、より強い絆を築くために

制度が変わっても、ミスをゼロにすることはできません。でも、制度という「システム」と、人間による「誠実な関わり(接遇)」の二つが合わさったとき、私たちは失敗から学び、より強い絆を築くことができるのだと信じています。



 
 
 

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