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医療政策から見た「関係性」の課題 ― 医療基本法とHSPの学びから-(No46)

ここからは少し視点を広げて、制度の話にも触れてみたいと思います。

1.HSPとの出会いがもたらした価値観の転換

私は2000年に長年勤めた大学病院を退職し、49歳でアメリカ留学をしました(背景はブログNo68に記載)。

2002年に帰国後、病院管理者として勤務しましたが、どこかしっくりこない感覚が残っていました。

そんな時、大学病院でお世話になった精神科の教授から、東京大学医療政策人材養成講座(HSP:Health Policy Summit)の受講を勧められました。

HSPは、全国の医療従事者、行政官、ジャーナリスト、患者支援者という4つのステークホルダーが集い、医療政策の立案や改革を実践できるリーダーを育成するプログラムです。

希望すれば受講できるわけではなく、私にとっては難関でした。

受からない可能性が高いと考えながらのチャレンジでした。

受講審査のための事前課題は、『医療はどう変わるべきか ~ 医療政策への期待 ~』というショートエッセイでした。


私のエッセイの要約が以下です。

【日本の医療は、少子高齢化や財政悪化の中で、医療提供者への負担増や医療格差が広がりつつある。

患者側には医療費未納や救急の私的利用などの問題があり、医療者側にも働き手不足や職場の偏りが生じている。

在宅医療の推進は家族の負担を増やし、生活や精神面に深刻な影響を与えることもある。

また、医療情報は氾濫しているが統合されておらず、患者・家族が正しい判断をしにくい状況がある。

こうした課題を改善するために、医療者と患者の関係性強化、双方向の情報共有、医療者教育、国民教育、医療情報の統合化、負担の公平性、医療従事者の労働環境改善、家族支援が必要である。

30年以上の臨床経験と家族介護の体験から、「患者を支える家族の負担をどう軽減するか」を重視し、医療政策を学ぶ中で多角的に検討したい。】


中高年での留学経験も評価されたのか、無事に受講が叶いました。

2007年〜2008年の1年間、日本の最先端で活躍されている方々の講義や、厚労省での政策過程を学ぶ機会に恵まれました。


その中で私が取り組んだ研究課題が、『医療基本法の法制化』でした。

制度の背景を理解するために、法律の構造を少しだけ見てみます。


2.医療基本法をテーマに選んだ理由

医療に関する法律は数多く存在します。

• 医療法  

•医師法  

•歯科医師法  

•保助看法  

•薬剤師法  

•臨床工学技士法  

•がん対策基本法  

•脳卒中・循環器病対策法  

•健康増進法   

•障害者基本法  

•高齢社会対策基本法

•自殺対策基本法   他


しかし、世界の多くの国に存在する「医療基本法」が、日本にはありません。

その背景には、

• 先に細分化された法律が作られてしまったこと

• 包括的な基本法を作る際の利害関係の複雑さ

があります。


3.医療基本法がないことで生じる課題

① 患者の権利が明確に法制化されていない

がん対策基本法などのように個別法がある場合は権利が保障されますが、その他の領域では明文化されていません。

② 医療の基本理念がない

理念がないため、医療事故、患者中心の医療、医療情報開示など、時代に応じた対応が遅れがちです。

★わたしは、この点を特に危惧しています。

③ 連携体制の問題

職種別・疾患別の法律分化により、総合的な医療・ケア体制の構築が難しい。


マイナンバーと保険証の一体化で実務的な連携は進んでいますが、理念がないことで将来的な“歪み”が生じるリスクを私は感じています。

医療基本法制定に向けた私自身の活動は一区切りとなりましたが、同じグループだった小西洋之さん(参議院)、今枝宗一郎さん(衆議院)が、今も医療基本法の制定に向けて活動を続けてくださっていると思います。また、「患者の権利を作る会」も継続的に活動されています。

『医療基本法』『患者の権利』『理念』という言葉が書かれた強固な土台から、太い根を張り大きく枝葉を広げる大樹のイラスト。大樹の枝の中では、笑顔で過ごす高齢の患者や家族、そして彼らを支えるように対話する医師や看護師など、多様な医療従事者が温かいタッチで描かれています。背景には希望を感じさせる朝日と、右下には大学や病院を象徴する建物が配置され、しっかりとした制度の土台の上に成り立つ健やかな医療と人々の関係性を表現しています。
医療の根幹を支える『医療基本法』と、理念という土台から育まれる患者と医療者の関係性

制度が現場でどう影響しているのかを考えてみます。


4.医療政策の現場で見えた“制度のほころび”

HSP修了後、2015〜2016年にはH-PAC(医療政策実践コミュニティ)で学びを深めました。

また、2014年にはRH-PAC(地域医療計画実践コミュニティ)のメンバーとして、「地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン」作成に関わらせていただきました。

日本の皆保険制度はWHOから世界最高と評価されていますが、少子高齢化により医療費は2017年度:42.2兆円 → 2040年:70兆円と予測されています。

制度の課題を学ぶ中で、私は“制度だけでは解決できない領域”があることに気づきました。それが、人と組織の関係性、そして日々の選択の積み重ねです。


では、制度の話から、未来の“選択”の話へ視点を移します。


5.Choosing Wisely が示す未来と、私の講座に込めた思い

Choosing Wisely の考え方は、皆保険制度を守るためにも重要な視点であり、また「自分らしい生活の選択」にも欠かせない考え方です。


私の講座では、

• 接遇(心の関係性)

• メディエーション(対話の質)

• Choosing Wisely(賢明な選択)

この3つを軸に、人と組織の関係性をより良く育むための視点をお伝えしたいと考えています。


6. 私が今、この事業を始める理由

HSPの合言葉が『医療を動かす』です。多くの、修了生は、中央や全国ネットで活躍されています。私は、そこまでの力はありません。でも、学ばせてもらったことへのお返しをしなければという思いが強く、地元で何か!と考えて行ったのが「お達者倶楽部(ブログ161820」でした。その活動も神奈川を離れてからは活動ができません。今、できる形で、学びを地域に還元したい!という思いが、今の活動につながっています。


 40年以上の臨床経験、家族介護の経験、管理職としての視点、そして HSP・H-PAC・RH-PAC での学び。

これらはすべて、「人と組織の関係性をどう育むか」という一つの問いに収束していきました。

接遇で学んだ“心の関係性”、メディエーションで学んだ“対話の質”、Choosing Wisely で学んだ“賢明な選択”。

これらの学びを統合し、今の医療・福祉・地域社会に必要な「関係性の力」を育む講座として形にしたい。それが、今も私を走らせている思いです。

 
 
 

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